こんにちは。コトノバです。
今回は、最近読んでよかった本
「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」について
いくつかの心に残ったポイントと感想を書きます。
※ちょっとだけネタバレありです
「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」の感想と概略
この本の舞台はイギリスのブライトンという町。
著者である日本人の母と
アイルランド人の夫との間に生まれた中学生の息子との
日常がつづられたノンフィクションのエッセイです。
まず、わたしがこの本に惹かれたのは
「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」
というキャッチーなこのタイトル。
そして読み始めるとさらにワクワクが増しました。
まずはイギリスのやんちゃな底辺中学校の学校説明会の様子。
校長などのあいさつが終わると
講堂のステージにはおびただしい数の中学生が並んで
ノリノリのダンスミュージック、
マーク・ロンソンの「アップダウン・ファンク」の演奏を始めます。
中学生たちは人種もさまざまで
それぞれがギター・ウッドベース、ウクレレ、ドラム、
そのほかよくわからないような民族楽器などを手に歌い、踊ります。
まとまりのない演奏。
なのに「どうしてこんなにヴァイブを感じるのだろう?」という問いに
「みんなが楽しんでるから」というやりとり。
この本の冒頭、ここまで読んだ時点で
私は「この本、めちゃくちゃ楽しそう」と感じました。
本文中にも出てくるビートルズ、ストーンズ、レッドツェッペリン、
デビッドボウイなど「イギリス=70年代ロック」の世界観に加え
多種多様な人種が音楽を介して心を一つにする
パワフルで爽快なヒューマンドラマになる、そんな予感がしたからです。
でも…
そのあともう少し読み進めると
「そんな予感」が外れたことに気が付きました。
ここで語られるのは
そんなドラマチックで爽快な出来事ではなく
日常の中のもっと地味な出来事。
それぞれ祖国の異なる3人の家族がイギリスに住み、
人種、貧富や教養の格差、ジェンダーなど多種多様な
「人と人の違い」から生まれる根深い人間関係のはなしでした。
そしてそれは、
パワフルで爽快なヒューマンドラマよりも
わたしにとって
もっともっと刺激的でいつまでも心に残るものになりました。
ここではわたしの心に残った3つのポイントをご紹介します。
- 「違い」は変化し続ける
- 変化と向き合うことで人は成長する
- 「違い」を知ることが共存のはじまり
1.「違い」は変化し続ける
多様化と言っても
生まれた国、肌の色、裕福、貧乏、性別や教養などの
「人と人との違い」はなんとなく想像できる気がしていました。
この本を読むまで
「それぞれの文化や慣習の違いを学び、理解すればなんとかなるだろう」
そう思っていました。
でも多様性の中で生きることは、そんな簡単なはなしではなさそうです。
目に見える「違い」以上に、その違いから生じる人の感情こそが、
多様化の中で大切なもの。
そして「人と人の違い」が触れ合ったときに現れる感情は、
その瞬間瞬間で変化するということ。
この本では
著者とその息子が直面したリアルな出来事の中での
それぞれの感情が揺さぶられ、
変化してそれぞれの言動に影響し形を変える様子が
とてもリアルに感じとれます。
特に、家が貧しく小さくなったボロ服を着た息子の友達に
「どうやれば彼を傷つけずに新しい洋服を渡すか?」を
模索するシーンのリアルな心情が印象的でした。
2.変化と向き合うことで人は成長する
この本の出来事は、1年半ほどのあいだの出来事です。
その間に中学生の息子、そして著者である母、父、
周りの同級生たちはどんどん変化し成長します。
「人と人との違い」に毎日接すると、
毎日ちょっとした違和感を覚えます。
その違和感に対しての反応も人それぞれ。
それでも彼らはその違和感に向き合い、相手の心情を想像して対話。
そこで生まれた新しい感情と向き合う。
人と接する中でそれぞれに合わせて変化し
共存するために成長を続けていきます。
文中で「エンパシー」という言葉の意味を理解することの
大切さが語られていましたが、
彼らが1年半の中でこの言葉の意味をどうとらえるようになるのか?
は1つの読みどころです。
エンパシー【empathy】
感情移入。 人の気持ちを思いやること。 [補説]シンパシー(sympathy)は他人と感情を共有することをいい、エンパシーは、他人と自分を同一視することなく、他人の心情をくむことをさす。
3.「違い」を知ることが共存のはじまり
この作品、基本的に舞台はイギリスですが、
日本人の著者(母)と息子が日本の実家に帰国した時の話も
少しふれられています。
彼女の実家は福岡の田舎。
親子で寿司屋に行くと、居合わせたサラリーマンに
「なんで子どもに日本語を教えないんだ!福岡をバカにしてるのか!」
といった心無い言葉を浴びせられます。
自分が生まれ育った故郷でさえ
一度離れると「違う人」にされてしまいます。
同じ日本人、同じ福岡生まれ。
それでも人は「違う」ことを見つけては、反応します。
全てが同じという人などいません。
「違う」ということを認め、
知ろうとすることからしか共存は生まれない、
そんなことを、彼らの体験一つ一つが教えてくれました。
まとめ
文の冒頭、
中学の学校説明会で舞台に並んで生徒たちは
色んな楽器を持って思い思いに歌い踊ります。
まとまりのない演奏。
それなのに聴いている人はヴァイブを感じたのは、
「みんなが楽しそうだから」。
それぞれの「違い」をそれぞれが理解して
それぞれが周りのグルーブを感じる。
そして楽しみながら自分のグルーブをそこに乗せていく。
こうして初めて人の心を動かす音楽になる。
わたしが最初にワクワクしたこの一節が
この本のメッセージを物語っていたのかもしれません。
この本、読む人によっても感じること
心に残る出来事はそれぞれだと思います。
これから多様化する社会で生きるヒントが
たくさん詰まっているのでよかったら一度読んでみてください。